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  • 【導入事例インタビュー】東京大学 災害対策トレーニングセンター

体系的な災害対策の知識を生かし、実際の災害時に行動できる人材を育成

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沼田 宗純 様

課題・導入理由
  • 現状の災害対策研修が、短時間・how to中心で、思考・理解が深まりにくかった
  • 災害発生時の対応者は都度変わることがあり、すぐに対応できないことも多い
  • 遠方から東京での研修に参加するには、移動時間、距離に大きなハードルがあった
  • eラーニングで知識をインプットした後に体験学習をするのが効果的だと考えたため
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解決策・効果
  • learningBOXを活用し「基礎〜上級」まで段階的なオンライン研修体系を構築
  • 動画+レポート+アンケートを組み合わせ、自発的に学びを深められる構成を実現
  • 総務省と徳島県の災害マネジメント総括支援員(GADM)研修をはじめ、全国の研修現場にスムーズなeラーニングを展開できるようになった

「東京大学 災害対策トレーニングセンター」は、災害から人命を守り、社会の機能を維持するために、災害対応に特化した実践的かつ体系的なトレーニングを提供しています。行政機関や民間企業、地域住民を対象に、47の業務カテゴリーに基づいた災害対策の全体像を可視化し、行動力ある人材を育成しています。その取り組みのなかで、学びの機会を継続的に提供する仕組みとして、eラーニングシステム「learningBOX」を導入しました。今回は、災害対策教育の在り方と、eラーニング活用による新しい学習モデルの構築についてお話を伺いました。

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「災害時に動ける人」を育てる、東京大学の災害対策トレーニングセンター

まずは、沼田先生の研究室で取り組まれている内容についてお聞かせください。

私たちの研究室では、工学系から社会科学まで幅広い分野を横断して、災害対策を体系的に研究しています。その成果に基づいたトレーニングプログラムを開発し、実際の研修にも生かしています。

自治体や民間企業、地域住民の方々など、さまざまな対象者の方に向けて、災害対策を学んでもらうことを目的としています。私は、もともと土木工学の出身ですが、今では各種インフラやライフラインなどの土木系の構造物に関するものから、避難所・医療分野・福祉分野・情報分野に至るまで、災害対策に関する幅広い分野の研究を行っています。

災害対策の業務には、どのようなものがありますか?

災害時に必要な業務を、まず47種類のフレームワーク(業務カテゴリー)として定義しています。縦軸に部署や組織、横軸に時間があって、災害発生の前と後で何をしなければならないかを記載しています。47の大きなカテゴリーに対して、細かい業務内容がそれぞれ書かれています。例えば、「避難所運営」「廃棄物処理」「道路の復旧」「建物調査」などですね。

「避難所運営」であれば、10個程度の業務に細分化して記載しています。そうなると、47×10で、約500ほどの業務があることになります。47種類がベースとなり、ベース自体のフローチャートの理想形を追求しつつ、それぞれ細分化した業務の効率化等、テーマを絞った研究もいろいろと行っている、といった具合です。

災害対策トレーニングセンターでは、まずこの47種全体の業務を勉強して、全体像を理解しましょう、そこからさらに、それぞれ個別の細かい業務では何がポイントで、何が必要であるのか等の深堀りを行いながら学んでもらいます。

実は、災害対策トレーニングセンターは、それぞれ専門の分野の企業様と一緒に運営を行っているんですよ。

沼田 宗純先生 47種のフレームワークについて

これら仕組みを運用するためのシステムが「BOSS(災害対応工程管理システム)」ですね。

47種類のフレームワークをベースに細分化させたフローチャートを作成する、災害対応工程管理システム「BOSS(Business Operation Support System)」は私たちが開発し、現在約60の自治体で導入されています。実際に「BOSS」を使ってもらい、災害が発生した時には全体像を把握しながら、具体的な指示を出していきます。

災害対策トレーニングセンター発足に至ったきっかけについてもお伺いできますか。

もともと研究室では、あらゆる災害対策について研究していました。一般的な仕事で考えると、ある程度同じ業務を繰り返していれば日々の業務って身に付いていきますよね。でも、災害は同じ事が起こったとしても、対応する職員がどんどん変わるので、対応者の大半は初めての経験、という場合が多くなります。そうなると業務の全体像が見えず、具体的に何をするのか分からないという点で、上手く災害対応ができないケースが多いんですね。

ですので、まずは全体像が分かるようなフローを作ろうと考え、現在は「BOSS」としてシステム化して、各地の自治体に導入しています。しかし、システムがあるだけでは、本当に災害が起こった時に対応できないので、研修や教育が充実していないとなりません。そこで、今の日本の研修や教育ってどうなっているのだろうと調査を開始しました。

その調査内容について詳しくお願いします。

日本の研修はどうしても短時間で、how to中心になりがちです。内閣府や総務省、国土交通省の研修もありますが、限られた時間のなかで詰め込む形式なので、じっくり考える時間がなく、知識が定着しにくいと感じました。

それに対して、海外の災害対策研修、特にアメリカの研修制度はきっちりと整備されていました。アメリカではeラーニングが進んでいて、1カ月〜2カ月かけて学ぶようなプログラムが整っており、動画教材も非常に充実していました。

そこから、社会人が、新たにきちんと学び続けられるような教育の仕組みが作れないものかと考え、この災害対策トレーニングセンターを自分達で作ろうと決意しました。

大きな決断でしたね。

最初は国の研修に参画する案も考えましたが、やはり実現するには相当な調整や専門人材が必要で、現実的には難しいと感じました。であれば、うちの大学で作ってしまおうと。さまざまな背景もあり、国が広げられない部分を補完する意味もあるし、逆にこういった全体像を描いて、行政、企業、地域住民、NPOやボランティア団体も含めた多くの方々に対して、全体像を教えるという仕組みがなかったので、災害対策トレーニングセンターを立ち上げて教育しようと考えました。

海外の防災教育からヒントを得たeラーニング導入

eラーニング導入のきっかけについてもお聞かせいただけますか?

2年ほど前に、静岡県の南伊豆町の廃校になった学校を使って、がれきを積んだり、それを処理したり、体育館で実際の避難所の運営をしたり、体験を充実させた研修を何度か実施しました。体を使って実際に体験することは、指示さえあればできるのですが、それよりももっと重要なのは、基本的な知識をインプットして思考する力です。逆に知識のインプットが充実していれば、プラスαで少し体験を盛り込む程度で、考えた事を実際にやってみる、使ってみるという点で非常に効果的になります。

ですが、インプットの部分も47種類全部を覚えないといけないので、1日・2日で集まって研修して、講師の話を聞いて終わり、というスケジュール感では時間が全然足りません。段階的にきちんと基礎から応用までを教えるような体系を作って、順番に教えるという仕組みをどう整えようかと考えた時に、アメリカの研修で使われているようなeラーニングが最適だと思いました。日本全国から、わざわざ東京まで出てきて座学で話を聞いて帰る、というのは移動時間も含めて、非効率ですよね。そこでeラーニングを上手く活用できないか、というところからlearningBOXにたどり着いたのです。

静岡県南伊豆町で災害対応工程管理システムBOSSの研修を実施

ありがとうございます。先ほどの海外の研修制度についてさらに詳しく教えていただきたいのですが、特に印象的だったものはありますか?

アメリカのFEMA(危機管理庁)ですね。国が全米の研修を担うために、大学や団体とコンソーシアムを組んで、教育プログラムを設計しています。教育プログラムは、お金も時間もかけて作成されていて、とても充実しています。全ての研修を全米に浸透させるために、7つの大学等がコンソーシアムのメンバーとなり、国が大学や団体に担当を振り分けています。

例えば、ハワイ大学は地震・津波、テキサスの大学は火災・消防など、それぞれ専門領域を持っていて、全米でプログラムの研修を実施しています。

アジアでは、インドネシアが参考になります。国家防災庁が宿泊施設付きのトレーニングセンターを設置して、ジョコ大統領が「世界一の防災研修センターをつくる」と明言しているほどです。海外からの受け入れまで見据えた、国家レベルの構想です。

日本の災害対策研修の課題はどのようなところにあるのでしょうか?

日本は、各組織が独自にさまざまな研修を実施していますが、各組織や団体間で教育プログラムとしての連携がありません。

アメリカもインドネシアもどうしてそのような研修プランが組めるのかというと、災害に対する基本型がきちんと仕組み化されているからです。

私は、災害対応は空手でいう「型」にあたると考えています。基本型があるから、想定外の災害が発生しても、基本型を更新する形で応用する事ができます。でも、その基本型が日本には存在していません。

避難所は日本全国に17万〜18万カ所ありますが、避難所間で共通する情報ツールもなく、自治体ごとに運営方法もバラバラです。国として共通のシステムがあって、全国でそのシステムを使うようにすると、どこの自治体でも同じツールを使って情報を集められますよね。

日本では、災害時には全国から応援職員が駆けつけてくれますが、持ってくる備品や対応の考え方もさまざまで、受け入れる側との認識が合わずに混乱が生じてしまうケースもあります。

過去の災害経験から、「型」に落とし込んで、そのノウハウを皆で共有することで、もっと効率よく災害対策を行っていきたいですね。共通の「型」に基づいた研修内容を、情報共有ツールやアプリに落とし込むことで、どこでも同じ基準で対応できるようになります。

将来的には、言語を切り替えることで国際的な標準化を進めていきたいと考えています。

総務省・徳島県のGADM研修でlearningBOXを活用中

どのようにしてlearningBOXを見つけられたのでしょうか?

探せばeラーニングを扱う企業ってすごくたくさんあるんですよね。種類が多すぎてよく分からなかった、というのが正直な感想です。迷っている中で、御社の担当者の方が研究室まで説明に来てくださいました。

その場で、eラーニングを使って実現したいことを相談したところ、こちらからの要望に全て応えてくれた点が大きいです。しかもすぐに対応してくれたんです。本当にありがたかったですね。他は機能的な面も大きなポイントでした。教材や動画をダウンロードできないよう設定できるところも重視しました。

他のeラーニングシステムも検討されたのでしょうか?

はい、私は一度ご説明に来ていただいてから、leraningBOXが良いと思っていたのですが、他の関係者からは「他のシステムが良いのでは?」という声もありました。ですが、機能面では、他のシステムとlearningBOXに、そこまで大きな差があるとは当時は思っておらず。

やはり人間的な部分が大きかったですね。要望にすぐ応えてくれる柔軟さと、サポートの対応の良さが一番ではないでしょうか。もちろん使いやすいし、機能も良いです。

これは、実際にコンテンツを作りながら感じたことですが、本当に使いやすいです。

実際にlearningBOXをどのように活用されていますでしょうか。

今は総務省と徳島県の災害マネジメント総括支援員(GADM)研修で活用しています。総務省のGADM研修では、まずログインして「コースを選ぶ」をクリックすると、専用のフォルダが出てきます。そのなかに教材が入っていて、最初にガイダンスページを用意しています。そこに、本講義の受講のお礼と概要(目的と身に付けて欲しい内容、受講の流れなど)を記載しています。

次に、この研修を受講する意義をもう一度確認しよう、という意味でアンケートを受講してもらいます。「住民のためにこのような支援がしたい」というビジョンを書いてもらい、頭の中を整理してから動画を視聴してもらいます。

動画のあとは、動画で学んだことをまとめるレポート課題に取り組んでもらいます。全体で50分ほどの構成になっており、任意で確認できる参考動画もセットで用意しています。

徳島県の研修も同じ構成でしょうか?

徳島県のGADM研修は、少し構成が違っていて、動画を5本視聴して、それぞれにアンケート形式の設問に答えてもらうスタイルです。47種類の災害対応業務のポイントを、自身でシミュレーションしながら記入していくなどの内容になっています。

現在、災害対策トレーニングセンターでは、基礎・初級・中級・上級と段階的に学べるコースを用意しています。現時点で、20名の各先生ごとにフォルダを分けて、動画をメインにした研修プログラムを組んでいます。

上級の内容は、企業でいうと、決裁権のある役職の方を、災害対策のリーダーとして育成するプログラムとなっています。基礎コースは、夏頃には開始したいと考えています。

基礎コースから先立ってスタートし、企業の若手研修として防災研修も組み込みたいと考えています。

learningBOXの有料オプション「EC」を使って、防災対策トレーニング基礎コース+BCP(事業継続計画:Business Continuity Plan)を考える5つのオンライン講座をセットで販売しようと計画中です。

基礎コース概要

ありがとうございます。最後に、今後learningBOXにどのようなことを期待されていますか?

現状でも十分満足していますよ。しいて言えば、動画教材をたくさん作って、テーマごとにファイル分けしてアップロードしているのですが、興味のあるワードで検索すると、関連する教材が自動でおすすめの組み合わせで表示されるような機能があるとうれしいですね。あとは、英語版にも対応できたら、より広く活用できると思っています。

インタビューにお応えいただき、
ありがとうございました!

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