ケアハラスメントとは?関連する法制度と企業ができる予防策
近年「ケアハラスメント」が社会問題となりつつあります。ケアハラスメントは、仕事と介護を両立する際に事業者や上司から嫌がらせを受けたり、不当な扱いをされたりするハラスメントの一種です。
「セクシャルハラスメント(セクハラ)」や「パワーハラスメント(パワハラ)」などに比べるとまだ認知度は低いものの、その被害に遭っている人は数えきれません。企業一丸となり、ケアハラスメントの防止に取り組む必要があります。
今回は、ケアハラスメントの特徴や具体例、企業が行うべき取り組みをご紹介します。
目次
ケアハラスメントの基礎知識
介護と仕事を両立するには、職場を含めた周囲の理解が必要です。ここでは、ケアハラスメントの定義や具体例を解説するとともに、近年注目されるようになった背景をご紹介します。
ケアハラスメントの定義
ケアハラスメントとは、働きながら介護をする人に向けたハラスメント行為のことです。ハラスメントは他者に対する嫌がらせや不快な発言・行為で、代表例として「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」「パワーハラスメント(パワハラ)」「モラルハラスメント(モラハラ)」などが知られています。ケアハラスメントも同様に「ケアハラ」と略されることの多い言葉です。
ケアハラスメントは、勤務先の上司や同僚から受ける場合が多く、仕事と介護の両立を阻む深刻な問題と考えられています。介護従事者や施設利用者、あるいはその家族に向けたハラスメント行為も確認されています。
要介護認定者が増えている昨今において、ケアハラスメントの解消が日本社会全体の課題といえるでしょう。
ケアハラスメントの具体例
ケアハラスメントのパターンは多岐にわたります。例えば、人事評価を不当に取り扱うケースです。
介護休業を申し出た従業員を解雇・雇い止めしたり、役職を降格させたりするケースは、上司などが職務上の優位性を用いて行うケアハラスメントの典型です。
行動ではなく、言動によるケアハラスメントも少なくありません。具体的には、介護休業利用者に対して「残業をしなくて済むからうらやましい」「介護なんて奥さんに代わってもらえばいい」「介護給付金の請求をやめてはどうか?」と制度利用を妨げたり、不当な言動をしたりする人もいます。
介護休業を取った従業員に仕事を与えないというような事例も起きている状況です。こうしたケアハラスメントの被害により、仕事と介護を両立できず離職する人もいます。
ケアハラスメントの主な原因
他のハラスメントと比較して認知が進んでいない
ケアハラスメントが横行する1つの要因に、認知度の低さがあります。
代表的なハラスメント行為には「セクシュアルハラスメント」「パワーハラスメント」「モラルハラスメント」「マタニティハラスメント」などがあり、これらは社内研修を通じてやってはいけないことという共通認識が広がっています。
ケアハラスメントの知名度が高まったのは近年のことなので、上記のハラスメント行為と比べるとそれほど広くは認知されていません。
そもそも耳にしたことがない人も多く、無意識の言動がケアハラスメントにつながるケースもあります。
介護に対する固定概念が残っている
日本社会には今なお「介護は女性が行うもの」という固定概念が根付いています。
近年、女性の社会進出が加速し、夫婦共働きの世帯も増加しました。政府としても、男女平等社会の実現に向けてさまざまな取り組みを行っています。
しかし「女性は○○をすべき」「男性は○○をすべき」といった男女の役割における社会通念・慣習は、なかなか変化が見られません。そのため、男性が介護休業を取ることに違和感を覚えたり、介護を女性に押しつけようとしたりする人もいます。
介護はいつ始まりいつ終わるのかが明確ではない
介護の始まりと終わりは、当事者ですら分からないものです。子どもの成長にともない復帰する育児休業とは異なり、明確な期間が決められていません。
こうした介護の性質から、経営者や上司が「介護に追われている人材に重要な仕事は任せられない」「復帰時期が分からない社員は辞めて欲しい」と考えることも珍しくないようです。
目次に戻るケアハラスメントに関連する法制度
ケアハラスメントを知る上で、介護関連の法的制度への理解が欠かせません。ここでは、介護休業や介護休業給付金、介護休暇などの特徴や利用条件をご説明します。
【参考】 介護休業制度|厚生労働省
介護休業
介護休業とは、労働者が要介護状態の家族の世話をするために取得できる支援制度です。「育児・介護休業法」にて定められた制度で、厚生労働省が整備促進に取り組み、労働者の仕事と介護の両立を支援しています。
介護休業の利用者は、休業開始日の2週間前までに、事業者に申し出が必要です。対象家族1人につき通算93日まで取得でき、利用条件を満たす労働者からの請求を会社側は拒否できません。
公的制度であるため、社内制度の有無も関係なく利用可能です。
介護休業給付金
介護休業給付金は、介護休業を取得した特定の労働者に支給される給付金です。雇用保険にもとづく給付金制度であり、利用の際は事業主がハローワークに申請します。
月々の給付金額は「休業開始時賃金日額×支給日数(30日)×67%」で計算されますが、休業中に別途手当や給与をもらっている場合は減額される可能性があります。
介護休暇
介護休暇は、労働者が要介護状態の家族の世話をするために、短期間の休みを取得できる制度です。介護休業と同じく、育児・介護休業法で定められています。
要介護者が1人の場合は5日間/1年、2人以上の場合は10日間/年まで取得できるのが特徴です。社内制度の有無は関係なく、利用の際に会社側は拒否できません。
所定外労働の制限(残業免除)
所定外労働の制限とは、労働者が要介護状態の家族を世話するために申請した場合、所定外労働を免除しなければならない制度です。いわゆる「残業免除」で、対象家族を介護する労働者(性別不問)であれば、基本的に申請できます。
なお、日々雇用の労働者、労使協定を締結している企業で働く「入社1年未満の労働者」および「1週間の所定労働日数が2日以下の労働者」は利用できません。
所定労働時間の短縮措置
育児・介護休業法にもとづく制度です。労働者が本制度を申請したら、事業主は所定外労働時間を短縮する短時間勤務を認めなければなりません。実施する場合、1日あたりの所定外時間は原則、6時間となります。
深夜業の制限
労働者が要介護認定者の世話をする場合、22時から翌5時の「深夜帯」に働かせてはならない制度です。この時間帯における労働を深夜業といいます。対象家族を介護する男女の労働者が対象ですが、所定労働時間のすべてが深夜帯となる人は、本制度を利用できません。
目次に戻るケアハラスメントを防止するために企業ができること
労働者をケアハラスメントから守るには、企業・事業主が積極的な防止策を講じることが大切です。
ここでは、企業が実践すべきケアハラスメント対策をご紹介します。
ハラスメント問題に対する会社の方針を明確にする
経営層およびマネジメント層がケアハラスメントを許さないという意思表示を行います。ハラスメント問題に対する自社の方針を明確することが強い抑止力となるでしょう。
これにより、社内に介護休業・介護休暇を取得しやすい雰囲気が醸成されます。職場環境の改善に役立つほか、従業員のモチベーションアップや離職防止も期待できると考えられます。
ハラスメント対策を就業規則などの社内規定に盛り込み、万が一発生した場合は、厳格に対処することが大切です。
社内研修を実施する
ハラスメントに対する自社の方針は、社内研修を通じて浸透させるのが効果的です。繰り返し実践することで、従業員がハラスメントの正しい知識を身に付けていきます。これによって問題の早期発見・解決が期待でき、ケアハラスメントを未然に防ぎやすくなるでしょう。
一般従業員向け研修、管理職向け研修など、役職ごとに内容を変更するのも効果的です。外部業者に研修実施を委託することも可能ですが、eラーニングシステムを活用すると自社に最適な社内研修を行えます。
相談窓口と社内体制を整備する
ハラスメントの被害者が気軽に利用できる相談窓口を設置します。社内に専用の部屋を用意し、相談者のプライバシーを守りつつ相談対応を行います。
その際は、ハラスメント問題に精通する人材を担当者に選任します。男女混合かつ複数人の担当者を設置し、相談者が安心して話しやすい環境を用意します。ハラスメント対策において、相談先の設置は急務といえるでしょう。
単に窓口を設置するだけでは効果が薄いため、社内ポスターを掲示したり、名刺サイズの携帯用カードを配布したりして、従業員に周知させることも大切です。ハラスメント被害者が泣き寝入りせずに済む労働環境づくりに努めましょう。
実態を把握するためのアンケートやヒアリングを実施する
社内の実態を把握するため、従業員向けのアンケートやヒアリングを実施しましょう。アンケート結果やヒアリング内容を分析し、実態把握とハラスメント問題の有無を特定します。
またアンケート実施後に防止策を講じることで、従業員の信頼を得る効果もあります。
ケアハラスメントはeラーニングで理解度を高めよう
少子高齢化社会の加速により、仕事・介護の両立が当たり前の時代が到来するといわれます。いずれケアハラスメントは、現状よりもさらに深刻な社会問題となるかもしれません。基礎知識や適切な対応、防止策を企業・従業員ともに学び、備える必要があります。
社内でハラスメントに関する周知をする際は、「learningBOX ON」のハラスメント研修コンテンツをご活用ください。
「learningBOX ON」は、eラーニング作成・管理システムであるlearningBOXに、企業で必須となる研修コンテンツを簡単に追加することができるサービスです。自社で内製したコンテンツと組み合わせて、オリジナルの学習コースを簡単に設計することができます。
ハラスメント研修やコンプライアンス研修のコンテンツなどを無料で利用できますので、ぜひ社内研修にご活用ください。
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