「令和の日本型学校教育」とは?日本型学校教育から今後の方向性、ICT活用までを解説
みなさんは「令和の日本型学校教育」という言葉を聞いたことはありますか?
教育関係者の方なら耳にする機会は多いと思いますが、この記事をご覧の方は「聞いたことがない」「聞いたことはあるが詳しくは知らない」といった方がほとんどではないでしょうか。
今回の記事では、日本型学校教育の成果・課題から今後の方向性、ICT活用に関する基本的な考え方まで「令和の日本型学校教育」の概要について分かりやすく解説します。
これからの日本を支えていく子供たちがどのような教育を受けていくのか興味がある方は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
令和の日本型教育について
そもそも「令和の日本型学校教育」という言葉がどこから生まれたのかというと、中央教育審議会(中教審)という文部科学省に設置された有識者の組織から生まれました。
簡単に説明すると、教育行政を担う文部科学大臣は重要な施策を制定するにあたり、まず中教審に「諮問(しもん)」という形で意見を求めます。中教審は何度も審議を重ねて「答申(とうしん)」という形で報告書を公表します。
これからの日本の教育について重要な役割を果たす中教審が令和3年1月にとりまとめた「答申」で「令和の日本型学校教育」という言葉が示されました。
【参考】 「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)|文部科学省
令和の日本型教育とは
それでは「令和の日本型学校教育」とはどのようなものなのでしょうか。その概要を中教審がとりまとめた答申に沿って見ていきましょう。
複雑で予測困難となってきている時代の中でも、子どもたちの資質・能力は確実に育成する必要があります。育成には「新学習指導要領の着実な実施」と「ICTの活用」が不可欠であるとされています。
その上で、今まで日本の学校教育が果たしてきた役割やその成果をもとに、新たな動きも生まれています。これらを踏まえて、2020年代を通じて実現を目指す学校教育を「令和の日本型学校教育」と定義しています。
今後育むべき資質・能力
「Society5.0」(※1)など社会の変化が加速度を増し、さらに新型コロナウイルス感染症の感染拡大などで予測困難な時代が到来しています。急激に変化する社会の中で育むべき資質・能力とはどのようなものなのでしょうか。
中教審がとりまとめた答申の中では、新学習指導要領の着実な実施とICTの活用により次のような資質・能力を育成することが求められています。
- 一人ひとりの児童生徒が、自分の良さや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重できるようにする
- 多様な人々と協働しながらさまざまな社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにする
※1 Society5.0とは…猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもの(内閣府:Society 5.0)
目次に戻る日本型学校教育とは
「令和の日本型学校教育」を考えていく前に、平成までの日本型学校教育はどのようなものだったのかを紹介します。
中教審は「答申」のなかで日本型学校教育とは子供たちの知・徳・体を一体で育む学校教育と定義しています。知・徳・体とはそれぞれ以下の通りです。
知・・・学習機会と学力の保障
徳・・・全人的な発達・成長の保障
体・・・身体的・精神的な健康の保障
明治5(1872)年に「学制」が公布されて以降、義務教育制度の草創期では就学率も低い状況でした。このような中で共通の学習内容は「読み書き」「計算」など最低限なもので、等級制(進級における徹底した課程主義)が取られていました。
明治23(1890)年前後に知・徳・体を一体で育むカリキュラム体系化され、さらに学級集団としての学級が成立しました。20世紀初頭以降には、就学率の上昇に伴い学年学級制(年齢主義)が一般化しています。
戦後の昭和20年(1945年)以降、学校教育法により義務教育期間9年の今日まで続く学校教育制度の基本が形成されました。さらに教育機会の均等と教育水準の維持・向上の基盤となる制度が構築され、質の高い学校教育が全国どこでも受けられるようになりました。
これまでに学校が学習指導だけでなく、生徒指導の面でも主要な役割を担い、子どもたちの状況を総合的に把握して指導を行ってきたことで、知・徳・体を一体で育む日本型学校教育が形成されてきたのです。
答申ではこれまでの日本型学校教育の成果と課題についても示されていますので、詳しく見ていきましょう。
日本型学校教育の成果
日本型学校教育の成果について次の3点が挙げられています。
- 国際的にトップクラスの学力
- 学力の地域差の縮小
- 規範意識・道徳心の高さ
学校は学習指導だけではなく、生徒指導の面でも重要な役割を担っています。子どもたちの状況を総合的に把握して指導を行うことで日本型学校教育は諸外国から高く評価されています。
OECD(経済協力開発機構)による教育政策レビューによると、日本の児童生徒及び成人は、OECD各国の中でも成績はトップクラスで、日本の教育が成功を収めているのは、学校給食や課外活動など広範囲にわたる全人的な教育を提供している点だといわれています。
また「平成31年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査」では、成績下位の都道府県の平均正答率と全国の平均正答率との差が縮小していることも報告されています。
【参考】 平成31年度(令和元年度) 全国学力・学習状況調査
コロナ禍により再認識された学校の役割
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、学校の臨時休業措置が取られたことでその役割が再認識されました。再認識された学校の役割については、以下の3点が挙げられています。
- 学習機会と学力の保障
- 全人的な発達・成長の保障
- 身体的・精神的な健康の保障(安全・安心につながることができる居場所・セーフティネット)
学校の臨時休業に伴い、学校は学習機会と学力を保障する役割だけではなく、全人的な発達・成長を保障したり、居場所・セーフティネットとしての福祉的な役割を担ったりしていることが再認識されました。
同時にこれらの3点は従来の日本型学校教育の持つ強みであるということも分かります。
日本型学校教育が直面している課題
現在の学校現場では、以下のような6つの課題に直面しています。
- 子どもたちの多様化
- 生徒の学習意欲の低下
- 教師の長時間勤務による疲弊
- 情報化の加速度的な進展に関する対応の遅れ
- 少子高齢化、人口減少の影響
- 新型コロナウイルス感染症の感染拡大により浮き彫りとなった課題
特別支援学校や小・中学校の特別支援学級に在籍する児童生徒の増加、外国人児童生徒の増加、さらに18歳未満の子供の相対的貧困率の上昇や、いじめや不登校児童生徒数の増加など多くの課題が挙げられています。
このような中で学校は、全ての子どもたちが安心して楽しく通えること、これまで以上に福祉的な役割や子どもたちの居場所としての機能を担うことが求められています。
さらに、コロナ禍において行われた公立学校を対象とした文部科学省の調査【文部科学省「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた公立学校における学習指導等に関する状況について(令和2年6月23日時点)|文部科学省」】では、ICT環境の整備が十分でないことなどで「同時双方向型のオンライン指導」の実施状況が、公立学校の設置者単位で15%に留まっていることも分かりました。
学校では日頃より児童生徒や教師がICTを積極的に活用し、非常時における子どもたちの学習機会の保障に向けた取り組みが求められています。
日本型学校教育の新たな動き
「令和の日本型学校教育」では、日本型学校教育の良さを受け継ぎ、更に発展させた新しい時代の学校教育の実現を目指しています。
今後の教育発展に向けての新たな動きとして、以下の3つを示しています。
- 新学習指導要領の全面実施
- 学校における働き方改革
- GIGAスクール構想
新学習指導要領の着実な実施
学習指導要領とは10年ごとに改訂される、文部科学省が定める教育課程(カリキュラム)の基準です。小学校は2020年度から、中学校は2021年度から全面実施されており、高等学校は2022年度から年次進行で実施されていきます。
学校における働き方改革
昨今、教職員の長時間労働等が問題視されており、文部科学省も問題解決に向けて取り組んでいるところです。具体的な取り組みとしては、勤務時間管理の徹底や業務の明確化・適正化に加えて、教職員定数の改善、専門スタッフや外部人材の配置拡充などです。
GIGAスクール構想
GIGAスクール構想とは、全国の児童生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組みのことです。
ハード面の環境整備だけでなく、デジタル教科書や児童・生徒が個別に苦手分野を集中学習できるAI(人工知能)ドリルといった「ソフト」と、地域指導者養成やICT支援員などの外部人材を活用した「指導体制」の強化も含めた3本柱で改革を推進しています。
目次に戻る2020年代を通じて実現すべき「令和の日本型学校教育」
中教審は答申の中で、2020年代を通じて実現を目指す学校教育「令和の日本型学校教育」の姿を「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」と示しています。
また3つの観点から実現すべき姿がまとめられていますので、次で見ていきましょう。
「令和の日本型学校教育」の3つの観点
「令和の日本型学校教育」実現のためには以下の項目が重要とされています。
子どもの学び
- 「個別最適な学び」と「協働的な学び」が一体的に充実されている
- 各学校段階において、それぞれ目指す学びの姿が実現されている
教職員の姿
- 環境の変化を前向きに受け止め、教職生涯を通じて学び続けている
- 子ども一人ひとりの学びを最大限に引き出す教師としての役割を果たしている
- 子どもの主体的な学びを支援する伴走者としての能力も備えている
子どもの学びや教職員を支える環境
- ICT環境の整備により全国の学校で指導・支援の充実、校務の効率化等がなされている
- 新しい時代の学びを支える学校教育の環境が整備されている
- 人口減少地域においても魅力的な教育環境が実現されている
これまでの社会構造の中で行われてきた「正解主義」や「同調圧力」から脱却し、子ども一人ひとりの多様性と向き合いながら、一人ひとりの子どもを主語にする学校教育の実現を目指していくことが重視されています。
【参考】 「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(答申)【総論解説】|文部科学省
「令和の日本型学校教育」における子どもの学びの姿
「個別最適な学び」と「協働的な学び」というと一見相反するものに見えますが、どちらの良さも適切に組み合わせていくということが、この答申では示されています。
個別最適な学び
指導方法や指導体制の工夫改善により「個に応じた指導」の充実を図るとともに、ICT環境の活用、少人数によるきめ細かな指導体制の整備を進めていくこと。
協働的な学び
「個別最適な学び」が「孤立した学び」に陥らないよう、探究的な学習や体験活動等を通じ、他者と協働しながら他者を価値ある存在として尊重しつつ、異なる考え方が組み合わさり、よりよい学びを生み出していくこと。
これら2つの学びを実現するためにはICTは必要不可欠と言及されており、今まさに学校は変わろうとしているといえます。
目次に戻る「令和の日本型学校教育」構築に向けた今後の方向性
地域差や家庭の経済状況等にかかわらず、全ての子どもたちの知・徳・体を一体的に育むためには、これまで日本型学校教育が果たしてきた役割を継承していくことが求められます。
その上で「令和の日本型学校教育」を実現するためには今後、以下の方向性で改革を進める必要があります。
- 学校や教師がすべき業務・役割・指導について、範囲・内容・量の精選・縮減・重点化を行う
- 学校と地域社会の連携・協働により、一体となって子どもの成長を支えていく
- 「二項対立」に陥らないどちらの良さも適切に組み合わせて生かしていく教育
┗ 一斉授業 or 個別学習
┗ デジタル or アナログ
┗ 履修主義 or 修得主義
┗ 遠隔・オンライン or 対面・オフライン
答申では、これらの教育政策のPDCAサイクルを着実に推進していくことが求められており、中央教育審議会においても初等中等教育分科会を中心に必要な検証を実施していくと記されています。
改革に向けた6つの方向性
全ての子どもたちの可能性を引き出す「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現に向けては、具体的に以下の6つの方向性が示されています。
- 学校教育の質と多様性、包摂性を高め、教育の機会均等を実現する
- 連携・分担による学校マネジメントを実現する
- これまでの実践とICTとの最適な組み合わせを実現する
- 履修主義・修得主義等を適切に組み合わせる
- 感染症や災害の発生等を乗り越えて学びを保障する
- 社会構造の変化の中で、持続的で魅力ある学校教育を実現する
将来を見据えつつ、質が高く魅力的な学校教育を地方でも実現させるため、学校の配置や施設の維持管理、学校間の連携方法なども検討していく必要があります。
目次に戻る「令和の日本型学校教育」のICT活用に関する基本的な考え方
学校教育の基盤的なツールとしてICTは必要不可欠なものです。これまでの実践とICTとを最適に組み合わせていくことを基本的な考え方として、Society5.0時代にふさわしい学校教育の実現には以下の3つが重要とされています。
- 学校教育のさまざまな課題を解決し、教育の質向上につなげる
- PDCAサイクルを意識し、効果検証・分析を適切に行う
- ICTを活用すること自体が目的化してしまわないよう留意
日本の学校教育がICT活用において国際的に大きく後れをとってきた中で、さまざま課題を解決し、これからの学校教育を大きく変化させて教育の質向上につなげていくことが求められるでしょう。
【参考】 「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(答申)【概要】|文部科学省
学校教育の質向上
ICT活用に関する基本的な考え方を踏まえた上で、学校教育の質を向上させるためには具体的に以下の3つの方向性が示されています。
①学校教育の質の向上に向けたICTの活用
- ICTを主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善に生かすとともに、今までできなかった学習活動の実施や家庭など学校外での学びを充実する
- 特別な支援が必要な児童生徒へのきめ細かな支援や、個々の才能を伸ばす高度な学びの機会の提供など、児童生徒一人ひとりに寄り添った指導を行う
②ICTの活用に向けた教師の資質・能力の向上
- 教員養成・研修全体を通じ、教師が必要な資質・能力を身に付けられる環境を実現する
- 教員養成大学・学部は新たな時代に対応した教員養成モデルの構築や、不断の授業改善に取り組む教師のネットワークの中核としての役割を果たす
③ICT環境整備の在り方
- GIGAスクール構想により配備される端末は、クラウドにアクセスし、各種サービスを活用することを前提
- 各学校段階(小・中・高)における1人1台端末環境の実現と、端末の家庭への持ち帰りが望まれる
義務教育の9年間を見通して「1人1台端末」を活用し、学習履歴の蓄積・分析・利活用をはじめ、児童生徒一人ひとりの特性や学習定着度等に応じたきめ細かい指導の充実が重要です。
また「新しい生活様式」を踏まえた身体的距離の確保に向けた対策、新たな指導体制や教師の人材確保など、新時代の学びを支える体制や施設・設備の計画的な整備を図っていく必要があるでしょう。
目次に戻るまとめ
上記で説明してきたことをまとめると「令和の日本型学校教育」は
<日本型学校教育 + 新しい動き = 令和の日本型学校教育>
という形で表現することができます。
また、全ての子どもたちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現を目指してICTを活用していくというのが「令和の日本型学校教育」といえるでしょう。
今回ご紹介してきた「令和の日本型学校教育」の概要を知ることで学校教育だけではなく、さまざまな教育に携わる方々がこれからの教育の在り方について考える際の一つのヒントになるのではないでしょうか。
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